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【症例情報】

10歳、シャルトリュー、6.5kg、去勢済み猫


【主訴】

右下顎が腫れてきた。食事がしづらそう。


【猫の下顎扁平上皮癌とは】

扁平上皮癌は猫の口腔内腫瘍のうち60~80%の割合を占めます。遠隔転移性はそこまで高くないですが、局所浸潤性が非常に強いため骨への浸潤も多く、局所での再発がしばしば問題になります。無治療の場合平均生存期間が2ヶ月程度と短いことも特徴の一つです。


【猫の下顎扁平上皮癌の原因・症状】

現在十分な根拠のある扁平上皮癌に対する原因は認められていません。老齢の猫で発生しやすい傾向(平均12歳)がありますが5ヶ月齢の若い猫や21歳の老猫も報告されています。性別による明らかな偏りはなく、去勢·避妊による影響は認められていません。
症状は壊死や潰瘍のため流涎症を示すものも多く、また嚥下困難や水を飲み込むことすら困難な場合もあります。腫瘍組織塊や反応性に形成された肉芽組織のため口を閉じられなくなる猫も一定数認めらます。潰瘍や化膿性の炎症により壊死が起こり、口臭が認められる場合もあります。


【X線検査所見】

左下顎骨吻側~後臼歯レベルにかけての左下顎骨が著明に溶解し、サンバースト状の骨増生を伴っている。扁平上皮癌などの悪性腫瘍、歯周病に伴う重度の骨炎などを疑う。


【CT検査初見】

 


 
右下顎体は顕著な骨融解および骨膜反応を認め、周囲軟部組織は造影増強を呈し、腫瘍性病変(扁平上皮癌 /肉腫等)を疑う。病変は吻側端で対側への浸潤を認め、左下顎は犬歯レベルまで融解を認める。また、第1後臼歯レベルより吻側では正中線を超えて存在する。病変により右下顎第3前臼歯は融解し、歯冠部が一部残存する。
下顎リンパ節:右3.6×5.2mm左3.5×2.8mm 内側咽頭後リンパ節:右4.9mm左3.7mmで認められる。


【切除前の病理検査】

鎮静下tru-cut生検により扁平上皮癌と診断。


【下顎扁平上皮癌の治療】

腫瘍治療の三本柱として外科·放射線·化学療法(抗がん剤)が挙げられますが本腫瘍においては化学療法と放射線治療での生存期間の延長はほとんどの症例で期待できないため、基本的に外科切除での治療が推奨されます。また猫の限局性下顎扁平上皮癌においては外科切除による完治が期待できる症例もいます。


【下顎扁平上皮癌の外科治療】

・下顎切除術

下顎切除は大きく部分切除と全切除に分かれます。腫瘍の浸潤範囲をCT検査などで評価し切除範囲を決定致します。本症例ではCT検査と増大速度の速さから右下顎全切除に加え左下顎吻側1/2切除を実施致しました。
また舌の下垂により流涎がみられることが多いため、口角縫縮術を実施いたしました。
術後は猫の73%の症例で採食困難を呈するため同時に食道チューブを設置し栄養管理を実施致しました。
 


【術後症例写真】


【術後管理】

下顎短縮、舌の下垂がみられることが多く唾液による皮膚炎を清拭により予防する必要があります。
また、飲食能力が低下するため食道チューブにより栄養管理を実施致しました。
術後の疼痛管理としてNsaids、麻薬性鎮痛薬を用いマルチモーダル疼痛管理を実施致しました。


【予後】

扁平上皮癌はネコの口腔腫瘍で最も多く見られる悪性腫瘍です。疾患の後期にはおよそ30%の症例で領域リンパ節転移が見られ、10%の症例では遠隔転移が疑われたという報告があります。今回の症例では切除縁には腫瘍細胞は認められず、また同時に切除した下顎リンパ節への転移も認められなかったことから良好な予後が期待されます。
再発、転移チェックとして目視による口腔内での再発チェック、超音波検査による対側の下顎リンパ節や患側の内側咽頭後リンパ節、胸部X線検査を術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と検診し、1年を目安にフォローアップしていく予定です。


 

 

当院では下顎扁平上皮癌や様々な症例に関するご相談や、セカンドオピニオンも承っております。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。ご予約やご相談は、下記のクロス動物医療センター公式LINEでも24時間受け付けておりますので、ぜひご利用ください。